夏目漱石 内坪井旧居 災害復旧

実際に夏目漱石が住んだ家が残っているのは熊本のみで、国内外から漱石ファンが訪れます。
熊本地震で被災し、その復旧を風設計室で担当しました。

2022年
熊本市中央区

重厚な造りで見ごたえがある住宅です。
内坪井旧居は大正時代に洋間、玄関など大規模な増改築がされていますが、中央の座敷周りは漱石一家が暮らした明治期の雰囲気をよく残しています。

建築概要

熊本市指定史跡
住宅 247.19㎡ 馬丁小屋 21.65㎡
木造平屋建て
地震被害の調査、復旧図作成、工事監理、報告書作成

建物来歴と被災から復旧に至る経緯

夏目漱石は明治29年から約4年間、第五高等学校の教師として教鞭をとりましたが、内坪井旧居は6回転居した内の5番目の住まいです。
内坪井旧居は漱石の長女が産湯を使った井戸もあり、鏡子夫人が「熊本で住んだ家の中で一番良かった」と語っています。庭も広く、南、西、北の3面に庭があり、近くには坪井川があり、蒸し暑い熊本の夏でも過ごし易かったのではないでしょうか。

2016年4月の熊本地震による被災状況は、ほとんどの土壁にひび割れ、剥落が生じました。 壁の崩壊で地震力を逃がしたとも言えますが、特に増築された洋間は被害が大きく、外壁ドイツ壁の剥落、内部漆喰壁の剥落し、史跡としての一般公開が困難な状況でした。
2017年11月から災害調査、復旧設計を行い、2020年3月から2年掛けて、災害復旧工事を行い、2022年3月に完成しました。

災害復旧工事

災害復旧工事では、傷んだ土壁解体、天井板、床板取外し、木造軸組状態にして全体調査を行い、地震による構造的被害や問題点を確認しました。
また今回の災害復旧では、単に壊れた部分を新しくするのではなく、歴史的価値を損なわず構造耐力を担保できるような修復・補強工事を行いました。

特に被害が大きかった明治期の座敷まわりと大正期に増築した洋間との間で、お互いの構造的特長が異なることから、地震時の揺れが異なりぶつかり合ったと思われます。
今後またこのような地震があっても被害が最小限になるよう、双方を補強すると共に、お互いの構造間にクリアランスを設けました。

屋根の瓦は全体的に葺き替え、蟻害や雨水による劣化部の解体、繕い、補修を行ました。
洋間のドイツ壁の復旧は経年変化した壁の色と、補修跡の色合いが斑模様にならないか心配しましたが、経験豊富な左官技術で復旧できました。

調査や工事中にも見学に来られる人が多く、漱石先生の人気を再確認しました。
内坪井旧居の一般公開が待たれます。

地震被災状況

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